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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『AV女優の家族』

 

20年前、AV女優が家族や親友に自分の仕事を打ち明けるというドキュメンタリーを見た著者が、AV女優たちにインタビューをして家族観について聞いて回った作品。現役ないし元AV女優5人(+その家族1人)、男優1人がその対象であり、インタビュー者の写真を多数掲載している。※なおインタビュー回答者は新書のページに書かれていないため割愛。気になる方はAmazonページ等で確認されたし。

AV女優にまつわる貧困・差別に関する本は数多い。そのため「前向きになれる本」を目指したと著者は語る。言葉どおり全体を通してポジティブなメッセージに溢れており、性風俗・アダルト業界を扱ったことによる退廃的なイメージはない。著者も再三「今ではなることが難しくなった、憧れられる仕事」と書いており、インタビューでも彼女らへのリスペクトが強く感じられる。
一方で学術的な何かを求めてインタビューが行われたわけではないため、著者の論考が掲載されたページはほぼない。なぜその仕事に就くことになったか? 自身の家族とはどういう関係か? 仕事を打ち明けたとき、バレたときはどうだったか、という個別のケースに関心がある人、或いはインタビューを受けた女優・男優のファン向けの内容と言えるかもしれない(僅かだが、それぞれのファンにしか理解できないやりとりが含まれている)。

 

AVに限らず、アダルトコンテンツに対する偏見や嫌悪感は今も根強いと思われる。それらの仕事に対して相対的にポジティブな印象が持たれるようになったのは事実だろうが、ウェブ上ではほぼ毎日のように「女性への性的搾取だ」、「本人が望んでしているのだから尊重すべきだ」という炎上が起こっている。本書にその正解が書かれているわけではないし、それについてここで立ち入る必要もないが、ひとつ言えるのはこれらの仕事に就いている人にはそれぞれのヒストリーがあるということだけである。ポジティブな内容が多いために「ネガティブな印象を持っている人はそもそもインタビューに参加しない」という批判もあるかもしれないが、これは本書の趣旨と明らかに逸脱しており、別の話であるとすべきだろう。

多数写真あり、かつ全編通してインタビュー形式という構成のために全体的に分量が少ない。手軽に読める反面もう少し踏み込んだ話も聞きたかったというのが本書の感想である。ただ男優の仕事にもフォーカスを当てたこと、家族がAVの仕事をどう捉えているかというテーマは本書の重要なポイントだと考えている。
余談だが最後の当真親子の話にはうるっときた。伝統的家族観? なにそれ? 食えんの? な私としては親子関係も家族それぞれだと思っているが、二世代でお互いを尊重し合える関係というのもいいものである。

 

 

澁谷果歩著『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』

なお本書(『AV女優の家族』)はAV女優の具体的な仕事内容には触れていない。こちらについては澁谷果歩氏の『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』が詳しい。澁谷氏はAVの仕事のポジティブな内容に限らず、ネガティブな内容(セクハラに遭いやすいなど)ついても語っている。