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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』 

 

ノーム・チョムスキーがなぜ気候問題? そう思った人も多いだろうし、それゆえ関心を持った人も多いのではなかろうか。

 

グリーンニューディールとは、地球温暖化の対策とそれに伴う経済的不平等の対処の両立を目指す経済政策である。また同名の政策提言書のことをいう。アメリカではオバマ政権下に提唱され、次期トランプ大統領期に廃止されたことで知られる。

 

本書はアメリカの例を中心に、2050年までの二酸化炭素排出量実質ゼロの世界を目指すための方策を探る本となっている。内容は著者ふたり(ノーム・チョムスキーとロバート・ポーリン)の半インタビュー形式であり、脱炭素がいかに必要か、そしてそれを現実に実行可能であることを示している。

 

第1章「気候変動の実像」では「環境危機は核兵器危機と共に人類史上初の真に実存的な危機」として、これまでに人類を襲ったあらゆる危機との対比が行われている。また本書が執筆された2020年4月現在の世界の情勢も見て、気候変動を解決するのに一刻の猶予もないことを示している。

 

第2章「資本主義と気候危機」ではなぜこれらの気候変動を抑える活動がうまくいかないかを解説していく。「資本主義の論理を放置すれば(地球環境は)破滅する」という一文など少々一方的な発言もないではないが、これらの阻害要因を列挙すること自体は必要なことだろう。

 

第3章「グローバル・グリーンニューディール」では「政治的に現実味があり、かつ経済的にも実行可能なグリーンニューディール構想」とはなにかを見ていく。経済格差への言及やふたりの意見の食い違う原子力利用の賛否のほか、必要な予算の数値と工面方法など最も踏み込んだ内容といえる。

余談だが、脱成長的アプローチが有効かどうかという意見に対し「25年間ほぼ経済成長していないのに相変わらず世界トップレベルの二酸化炭素排出量を誇る日本を見れば(結果は)わかる」という旨の文章がある。ぐうの音もでないとはこのことか。

 

第4章「地球を救うための政治参加」では現実に進行する環境問題と関わる思想・活動への考えをふたりに問うている。

ここで目を引いたのが数ヶ月以内に大規模展開が現実的に可能な方法として「公共ビルや商業ビルの完全省エネ化」を挙げているところだろうか。本書に書かれていることを実現するための行動に早過ぎるということはない。

 

 

グリーンニューディールには賛否両論激しい。あまりに非現実的だとする意見、単純に左翼的で気に入らないという感情論、そもそも人為的な二酸化炭素排出が気候変動の原因ではないという懐疑論

 

個人的にも数年間「本当に地球温暖化による気候変動なんて起こっているのか? 異常気象といいつつ伊勢湾台風級の台風なんて長い間来ていないぞ?」と思っていたことがある。ただ多くの気候の専門家が警鐘を鳴らしていることを個人の感想で否定できるとは思っていないし、素人なら素人なりに考えてみるべきだとも思うのだった。

 

気候変動は特定の国や団体を儲けさせるための欺瞞だという陰謀論も花咲いている。確かに多くの人類が予想する通りに地球温暖化が進む可能性は100%ではない。ただこれに対してポーリンは言う。

 気候変動に付随する不確実性という現実に向き合ったとき、浮き彫りになる問題が一つある。科学界の総意が実は誤っていたとしたらどうか。より正確に言い換えるならば、気候変動から深刻な被害が何も生じないという、比較的確率が低い結果が実現するのだとしたらどうか。その場合、世界は30年間で数兆ドルもの金額をありもしない問題の解決のために浪費したということになるだろうか。

 現実はといえば、私たちは気候変動の影響に関して100%の確実性を待つのではなく、合理的な確率の推計に基づいて確固たる行動をとるべきだ。

(第1章「気候変動の実像」より

 

グリーンニューディールはラディカルと言われても仕方のないほどの抜本的な改革を必要とする。しかしそれは無謀(に見えるよう)な政策でも断行しなければならぬほど環境悪化が進んでいるためで、知っていながら看過してきた前世代のツケを否応なく払わされているだけのことに過ぎない。地球温暖化が予想通り進んでしまった際のリスクを、払わなくていい世代の甘言に乗ったために負わされる愚を犯してはならないだろう。確実でなくてもこれらの政策を「保険」として行っていく道は間違っていないはずだ。

 

「私は正しい。もし他の人たちにそれがわからないならば、それは相手の問題だ」

 そうした態度は往々にして有害な結果を招く。

(第4章「地球を救うための政治参加」より)

グリーンニューディールに対する世界中の「シガラミ」を具体的に論じて解決策を提示するような紙幅は本書にはない。本当はその方法を知りたくて手に取ったのだが、もちろんそんなにうまい話は世界中の遺跡を発掘し尽くしても見当たらないだろう。しかしもうすべて手遅れだと諦める必要のないことだけは示してくれた。

 

内容に賛否はあるだろうが、少しでも関心のある人にはぜひ薦めたい一冊である。

 

 

ところで本書を知ることになったツイートがこちら。これひとつで紹介は事足りる気もした。