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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『人生でいちばん美味しい! リュウジ式至高のレシピ基本の料理100』

 

あんまり料理が得意じゃない人には、「あ、けっこう美味しくできた」と自信にしてもらえれば嬉しいし、料理が好きな人には、「自分史上最高の味」を更新してもらいたい。
「はじめに」より

自炊の何が最高かって、好みの味にカスタマイズできることです。どんなに腕のいいシェフでも、あなたの好みを完全に把握はできません。自分の舌に合わせられるのは自分にだけ許された特権。好きな味を生み出す方法さえわかれば、自分で作ったごはんは世界一美味しくなります。
「はじめに」より

料理レシピを読書記録と呼ぶのには些か違和感がある。しかし記録と言いつつ事実上は「本の紹介」をしているわけであり、オールジャンルを謳う以上スルーするわけにもいかなかった。というより前から「料理レシピの管理に関するエントリ」を書いてみたいと考えていて、これはその布石でもある。ただ今さら紹介する必要があるのか疑問に思うほど有名なレシピ本なのだが……。

今や日本で1、2を争う知名度料理研究家リュウジの自信作を集めたレシピ本。著者は日常的な発言・発信をTwitterで行っているが、レシピ紹介自体はYouTubeチャンネルを中心に据えている(140文字に調理工程が収まるレシピはツイートでも公開しているし、保管的にInstagramでも投稿がなされている)。ほとんど毎日のように投稿される本YouTubeチャンネル「リュウジのバズレシピ」では、特にこだわりを見せている料理レシピ名の頭に「至高の」と付与し、それらレシピ群を「至高シリーズ」と呼称する。その至高シリーズを集めたのが本書であり、著者が自信満々に「最高傑作」と呼ぶのも頷けるレシピが揃っている。

リュウジ氏の動画は大抵「料理のお兄さんリュウジで〜す!」という自己紹介から入る。初めて視聴するとあまりの早口に驚くが、これはキッチンドランカーである著者が料理よりも先に出来上がってしまっているせいである(早口になっていないときはまだ酔っていない)。キャラ付けというのもあるのだろうが、毎回調理開始前に理由をつけてハイボールを作成、一口呷ってから包丁を握るのがお決まりとなっている。わざわざ酒を飲むシーンが必要か? という意見もあるだろうが、これだけ料理YouTuberが多いなかで生き残っていくためには仕方がないところもあると思う。※なお著者本人はビジネス飲酒ではないと否定している(笑)
料理レシピは非常にお手軽に作れるものが多い。基礎を叩き込まれたという中華料理を得意とし、リュウジ家で頻繁に利用されているという調味料「味の素」を多用する*1(同社とのコラボ動画も多いが、これはリュウジ氏が以前からよく使っていたためオファーがあったらしい)。著者自身も「邪道」と呼ぶ破天荒な調理法もたびたび用いられるが、料理を得意としない人々にとっては却って歓迎されている印象がある。そのキャラクター性も含め賛否両論あるが、料理をする楽しさを教え、「調理者は完璧でなくてはならない」という障壁を破るインパクトの強さは昨今の料理研究家のなかでも1、2を争う影響力を生み出した要因と言えるだろう。
そしてもう何年も続いているYouTube大流行のこの時代に、頻繁にレシピ動画を投稿して知らないうちにレコメンドに上がってくる状況を作っているあたり、素直にビジネス手法として見事と言えるのではなかろうか。
今や人気者となり過ぎたせいか著者の周囲ではたびたび炎上起こっている。よく事情を知らないのでコメントはしないが、料理に罪がないようにレシピにも罪はない。気になるレシピを見つけたなら作ってみればいいし、美味しいと思ったならば評価すればいい。それで構わないと思う。

 

さて、実際に本書で紹介されているレシピをいくつか紹介しよう。掲載されているレシピの多くはすでに動画で紹介されており、レシピ本自体にもそれらのQRコードがついている。「じゃあレシピ本買わなくてよくね?」という人もいるかもしれないが、動画と紙のレシピでは勝手が違うし(またそれについても書きたいと思う)、完全に一緒ではないことも申し添えておきたい。


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「至高の炒飯」
料理研究家の腕前の試金石となるとされ著者も気合を入れて作った至高の炒飯。具材は豚肉、卵、長ねぎぐらいとシンプルなのがありがたい。生姜の香りをウリにした炒飯は数多いが、味付けの過程で香りが消されてしまったり、逆に気を遣い過ぎて薄味で物足りなくなってしまうこともしばしば。その点このレシピはそのバランスが絶妙である。問題は本書内でこれを越えた至高の炒飯レシピを併載していることか(笑)

 


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「至高の餃子」
牛脂や粉ゼラチンを用いる変わった餃子レシピ。溢れる肉汁と特性醤油ダレの相性には驚かされた。餃子にはいつもキャベツを使っていたが、このレシピを見てからは白菜派に変わった。餡を包む工程はどうしても手間だが、個人的には調理済みの至高シリーズのなかで一番好きである。

 


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「至高の担々麺」
きちんと作ろうとすると2度と使わなさそうな調味料をたくさん揃えなくてはいけない類の料理は多い。それをこれだけの材料で作れるのが見事である。肉味噌と練りごまの圧倒的再現率には舌を巻いた。名前を間違えやすい豆板醤・甜麺醤を両方使うので家族に買ってきてもらう場合はトラブルに注意。

 

※改めて見てみると私自身が勧めたいレシピのいくつかは至高シリーズと勘違いしていただけで別メニューだったと発覚した。結果全部中華料理となってしまった。ただの自分の好みじゃないか(笑)「やはりリュウジの真骨頂は中華だ!」と強弁を張って逃げよう。

 

なおリュウジ氏のレシピには主食や主菜を張れる料理が多く、副菜が少ない印象がある(私の料理は趣味レベルなので実際にはどの料理研究家もそんなものかもしれない)。弁当のおかずに頭を悩ませることの多い私はその点では他の料理研究家のお世話になっていることが多い。おそらくこれは料理初心者に成功体験をしてもらいたい(とりあえず一品だけでもある程度食卓が栄える)というねらいがあるためだろう。当然だが料理に「いいとこ総取り」はない。どこのスーパーにも安く売っている材料ばかりを使い、包丁すらも使わずわずか数分でお手軽に、かつプロの料理人も驚くような味と華やかな見栄えがあり、栄養士も驚嘆するような栄養バランスの料理などあり得ない。それらの要素の多くはトレードオフであり、どれを優先するかはそれぞれの研究家次第である。そのため(著者本人も認めているにもかかわらず)「栄養バランスが悪い」と批判するのは筋違いであるし、また別の料理研究家に対し「お洒落だけどダイエットの敵みたいなレシピばかり」、「視聴者(読者)はプロでもないのに無茶な技術を求め過ぎ。上から目線が過ぎる」というのも妥当性がないと言えないだろうか。別に料理レシピ界隈は弁論の世界ではないので細かい話とは思ったが、念のため。

*1:他メディアでレシピが紹介されるときは大抵「うまみ調味料」に書き換えられている。