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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『一軍監督の仕事 育った彼らを勝たせたい』

 


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「自分のことをしっかり理解して、自分の足元をしっかり見つめて、周りのチームメイトを信じ、このチームスワローズが一枚岩で行ったら、絶対崩れることはない。絶対大丈夫。これはしっかり自信をもって戦える。何かあったら僕が出ていく。何かあったら僕に相談しなさい。何かあったらコーチに相談しなさい。自分で抱え込まないで。これがチームスワローズ。これでずっと戦ってきた。去年の反省を活かし、今年どうやって戦っていくのか。去年の悔しい思いを今年どうやって晴らすかということをずっとやってきたのが今年のチームスワローズ。みんな自信をもって頑張りなさい。絶対大丈夫、絶対いけるから、絶対大丈夫。もし今日グラウンドに立つときにふと思い出したら「絶対大丈夫」と一言言ってから打席に、マウンドに立ってください。絶対大丈夫だから。どんなことがあっても僕らは崩れない」

 

「絶対大丈夫」を合言葉に2年連続最下位からのリーグ優勝、そして20年ぶりの日本一という最高の栄誉に輝いた2021年の東京ヤクルトスワローズ。言葉の力でチームを鼓舞し、おそらく史上最長スパンであろうシーズンを監督として戦い抜いた高津臣吾氏による著作第2弾。本書の前半は2021年のプレシーズンから日本一までの道のりを記録とともに振り返る言わば監督の回想録である。そして後半は前作『二軍監督の仕事』よりさらに具体的なチームマネジメントに踏み込んだ一軍監督就任後の仕事観について明かしている。

※『二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい』の読書記録はこちら。

tsuge-m.hatenablog.com

 

『一軍監督の仕事 育った彼らを勝たせたい』

目次

第1章 2021年かく戦えり
第2章 日本シリーズかく戦えり
第3章 運命の第6戦、涙の日本一へ
第4章 2021年を戦い終えて
第5章 スワローズのV戦士たち
第6章 育てながら勝とうじゃないか
第7章 スワローズ・ウェイと、野村監督の遺伝子
第8章 スワローズ・ウェイの完成に向けて
(光文社の本書ページより)

前述の通り、第1章「2021年かく戦えり」はCSファイナルステージまでの記録を早足で辿っている。新型コロナウイルス感染絡みの選手離脱、助っ人外国人合流の遅延、話題になった古田敦也臨時コーチと中村悠平の覚醒についてももちろん触れられている。このなかで飛翔の機運として交流戦でのホークス戦を挙げているのが印象的だった。
第2章「日本シリーズかく戦えり」、第3章「運命の第6戦、涙の日本一へ」ではパ・リーグ覇者オリックス・バファローズとの熱戦の舞台裏を描いている。こちらで記憶に残るのは降板した後の投手たちの素顔である。第1戦で最強エース山本由伸と投げあった奥川恭伸の後悔、第2戦で圧巻のピッチングを見せた高橋奎二の試合後の監督とのやりとり(この自信満々な発言をしていて今シーズンも現時点まで文句なしのピッチングを続けているのがすごい。いや本当にカッコいい)、クローザーとしての意地の続投を見せたマクガフ。監督自身が投手出身であり、チームの守護神だったこともあるため、石山泰稚やマクガフに対する共感の強さは特に感じるところである。

第4章「2021年を戦い終えて」はシーズン終了後の振り返り。シーズン終了後にへとへとになって寝込んでいたという話を聞くと、本当にハードな戦いだったのだなと痛感する。
続く第5章「スワローズのV戦士たち」は優勝に絡んだ選手たちの何人かについて監督自ら語っている。打撃だけでなく山田哲人の守備も評価してほしいという監督の親心、いじられキャラ清水の秘密(これを読んだファンたちは今後清水が登板するたび「おっ、清水さん」とツイートしそうである)、本当に興味を引く部分が多い。監督という立場ゆえ詳しく語りづらいのはわかるものの、もう少し紙幅を割いて語る人数を増やしてくれてもよかったかもしれない。

 

第6章「育てながら勝とうじゃないか」からはまさしく「一軍監督の仕事」に踏み込んでいく。前著で「育てるためなら負けてもいい」と書いていた監督の一軍監督就任後の考え方の違い、変わらない部分が語られる。
第7章「スワローズ・ウェイと、野村監督の遺伝子」は監督の恩師である野村克也氏の野球論について。監督自身の聞いたこと、経験したこともちろんだが、昨今のデータ野球と野村野球の心得の親和性の高さを述べている。メジャー経験のある高津監督はところどころアメリカ流の用語を用いるが、セイバーメトリクスに強い関心をもつのもその影響だろうか(おそらく本書に書いてある通り純粋に分析が好きなだけなのだろうが)。
第8章「スワローズ・ウェイの完成に向けて」はこれからのチーム運営の展望を語る。強豪チームの黄金期を見つめつつ、スワローズを常勝球団とするための考えが明かされる。

 

仲の良いファミリー球団というイメージの強いスワローズ。その居心地のよさゆえか助っ人外国人を何人も成功させていることは周知の通りである。一方で「馴れ合いが生まれる」という批判もあり、お世辞にも強豪チームとは言えないのも事実である。もっともこれらは世間一般の評価に過ぎず、本当のところはチームの中の人にしかわからないことだろう。
ただその通称・ファミリー球団が一致団結して勝ち進むストーリーには胸を打たれた。3つアウトを取って日本一が決まる前にすでに泣きそうだった青木宣親の顔にはぐっときた。ネットで感動にむせび泣いているという人たちのツイートを見ているとついに私もうるうるし始めた(これを書きながらまたちょっと涙が)。
私がこのチームを応援し始めたのは青木が200本安打を達成して大ブレイクした翌年のこと。石井一久古田敦也も、そして高津臣吾監督もまだ現役だった。それから長い冬の時代を迎え、2015年にリーグ優勝したときの高揚感は今も忘れていない。そして2021年には日本シリーズを制し、悲願の日本一を達成してくれた。
私には嫌いな球団が特にない。スワローズファンであることは譲らないが、地元に近い大阪の球団であるオリックスはむしろパ・リーグで一番優勝してほしいチームだと思っていた。そんなオリックスとの戦いだからこそ燃えた。接戦に次ぐ接戦で胃が痛くなった。特に第6戦、こちらが絶望するほどのピッチングで立ちはだかった山本由伸には拍手してもし切れないほどだった。おそらくヤクルトが勝てたのは2015年に日本シリーズを経験していたからという僅かな差だったのではないか。余談だが2021年、絶対エース・山本由伸(というか吉田正尚も)は全国の野球少年少女たちの憧れの的となった。おかげで周囲の子供たちに「なんでヤクルト勝つんだよー!」と大ブーイングを食らったほど(笑)なんでや! お前ら巨人阪神ファンやろ! と(第一、由伸は打ち崩せてねーよ!)。


などと感傷的に書いてきたが、それでも日本一は通過点だと思っている。青木宣親の日米通算3000本安打石川雅規の200勝、奥川恭伸・高橋奎二の両エースの大成、石山本願寺再建、絶望のチームをいつでも支えてくれたエース小川の意地、寺島成輝の成功、清水昇・田口麗斗のさらなる飛翔、山田哲人前人未到の4度目トリプルスリー……。見てみたい景色を挙げ出したらきりがない。
だからこれからも私はこの球団を応援し続ける。まだまだスワローズ・ウェイは道すがら。その先を見ないなんてあり得ない選択である。
この本を自室の本棚に置いて、それを見るたびに2021年のシーズンを思い出すに違いない。そのとききっと心のなかでこう呟いているはずだ。
「スワローズファンになってよかった」と。


最後にヤクルトファンはみんな知っているだろうが、最高のスワローズ本を。

長谷川晶一著『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』

未読の方は『二軍監督の仕事』読了後こちらもどうぞ。長谷川さんのスワローズ愛がどこまでもファンの気持ちに刺さる名著である。

 

高津臣吾著『二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい』

続けて読んでいる人も多いという。この素晴らしい組み合わせ。最後に光文社さん、ありがとう。