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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『「女性向け風俗」の現場 彼女たちは何を求めているのか?』

 

はじめに
第1章 演技に疲れた女性たち
第2章 独身女性の胸の内
第3章 50代からの風俗
第4章 感じない悩み・性交痛
第5章 セックスレスの夫婦たち
第6章 処女のお客様
第7章 中イキを経験させて下さい
第8章 喪失感を抱える障がい者
第9章 ユーザー座談会
第10章 女性向け風俗の裏話
第11章 日本の男女の性、未来予想
おわりに
(光文社当該書籍ページより)


女性向けの風俗店を運営するセラピスト柾木寛氏が、自身の施術の際に耳にした「女性の性に対する本音」を集めた本。あとがきによれば女性が人に話すことのできない性に関する本音を「男性向け」に書いたとのことである。

性風俗店は女性が男性に性的なサービスを提供するものしか存在しないと思われがちだが、女性向けにサービスを提供する店舗も推定200店舗ほど存在するという。しかしそのサービス内容は玉石混淆で、単に男性セラピストが己の性欲を満たしたいがために運営しているものも多いとのことである。これらのサービスを利用することに対する女性たちの心理的障壁は、社会通念で考え得る以上に高いものとなっている。著者のもとを訪れる女性には「トラブルや犯罪に巻き込まれるのではないか?」という悩みから何ヶ月も利用を渋った人も多く、また遺書を書き残して家を出てきた人のエピソードも挙げられている。

柾木氏は40代男性で、本文中では自身を「セラピスト」、「サービス」を「施術」と書いている(おそらく「性風俗」を連想する言葉が女性に抵抗を生みやすいためだと思われる)。サービス利用者の年齢は主に20〜50代と幅広く、その動機も様々である。そのなかで性交痛に苦しみながらも「感じる」演技をしている女性、新婚なのにサービスを利用したがる女性、「処女だと思われたくないから」という(一昔前では考えられなかった)動機の若い女性らに出会い、その本音を聞くうちに男性たちの女性に対する誤った「性」理解、男女のすれ違いを改善したいと考え、本書の執筆を考えたという。

 

それぞれの章が非常に細かく分けられており、書籍現物かAmazonで目次を読めば書かれていることのおおよそは理解できると思われる。そのためここで逐条的に内容を紹介することはしない。しかしこれまで秘匿されてきた女性の性の問題がSNSの普及から可視化されてきたこと、恋人や夫の気持ちを慮って「満たされない気持ち」がいつまでもすれ違い続けているカップルの本音など、見事な分析と価値ある情報の数々は特筆すべきだろう。
また専門用語が飛び交わず、俗語の散見される文章は「いい意味」で新書らしくなくてよかったかもしれない。医学の専門家ではない著者が割り切ってわかりやすく書いているのもあるだろう。学術的な価値のある情報は少ないかもしれないが、女性たちが抱えるさまざまな悩みを顕在化させる試みには充分過ぎるほど価値がある。
ただひとつだけ細かな注文をつけるならもう少しだけ男性側の性の悩みに寄り添った章があってもよかったかもしれない。自身も性の悩みを持っている男性にとって、これらの真実はキャパオーバーを招きそうだからである。

 

『男子の貞操 僕らの性は、僕らが語る』

男性の性に関する本音ではあとがきにも名前のあったホワイトハンズの坂爪真吾氏が得意とする分野である。障害者の性という非常にセンシティブな分野にも言及した書籍を書いているため合わせておすすめしたい。

 

 

『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由 幻冬舎文庫
こちらは切り口が違うものの、作中に登場する女性の悩みに繫がる「子宮摘出」に関する体験エッセイとしてアルテイシア氏の本書を紹介したい。本書はユーモラスで非常にいい本なのだが、扱うテーマが多岐にわたっていてタイトルで損をしている気がする。