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気まぐれ系読書ブログ

読書記録『二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい』

 

 

東京ヤクルトスワローズ監督の高津臣吾氏が二軍を率いていた際の作。球団ファンに向けた裏話も交えながら二軍監督としての仕事を紹介していく。
なお昨シーズン日本一を達成したこともあってか、続編『一軍監督の仕事』が今月発売予定である。

 


第1章「育てる 育成には、プランが大切だと改めて知った」では二軍監督の仕事について簡単に解説している。振るわなくても打順を変えずに辛抱して使い続ける理由、二軍監督の仕事の醍醐味は高卒選手の育成にあることなどが述べられている。個人的に興味深かったのは今や球界の代表的なスラッガーとなった村上宗隆は、元横浜DeNAの筒香嘉智の育成プランを(外から)意識して育てられたという点である。

 

第2章「モチベーションを高めるために必要なこと」では二軍選手たちのモチベーション管理について持論を述べている。特に大事としているのは練習するだけでなく試合に出る機会を与えることだという。またメジャーリーグ経験のある高津監督ゆえ、一軍と二軍の区別が必要だと書いている。もちろんそれはメジャーと比較して劣悪なマイナーリーグの環境に合わせろという意味ではない。

 

第3章「育てる組織」では主に二軍スタッフの仕事についてアメリカ・マイナーリーグや国内他球団との比較も交えて解説している。ここでも面白いのがマイナーリーグの事例である。高津氏の関わった球団のコーチングスタッフは監督と打撃コーチ、投手コーチの3人のみだったという。監督が三塁コーチャーを務めるなどなんでも兼務をしなければならないため、アメリカではスタッフも育てられていく感じがあったという。
      
第4章「コミュニケーションが円滑な組織を生む」ではコーチ陣とのコミュニケーションや二軍に落ちてきた若手やベテラン、外国人選手らとの接し方について書かれている。またここでは自身の選手時代の印象的なミーティングについても触れられている。

 

第5章「監督になって知る野球の奥深さ」では監督の視点から見た野球の見え方について書かれている。当然だがバント指示や打順、サインの扱いは監督の仕事である。これらの戦略論ならばすでに何冊もいい本が出ているが、現場でサインはどのように送られ、見られているかの部分はなかなかに新鮮に読めた。

 

第6章「僕が学んだ監督たち」では高津監督が現役時代に関わった指導者たちのパーソナリティやエピソードが満載となっている。特に印象的なのは野村克也監督の徹底したミーティング、そして日本では考えられないラフさのホワイトソックス元監督オジー・ギーエンのお祭り野球であろうか。

 

第7章「二軍珍事件簿」は一軍では考えられない二軍戦のおもしろエピソードを集めている。ヤクルトファン向けのボーナストラックのような章だが、二軍試合はコーチも育てるという部分は素直に興味深かった。


私がヤクルトファンかつ光文社新書ファンのため買った本だったのだが、多忙を言い訳にしてずいぶん放置していた。光文社新書には面白い野球本が多々ある。全部読んだわけではないが、特に好きなのは『セイバーメトリクスの落とし穴』と『監督・選手が変わってもなぜ強い? 北海道日本ハムファイターズのチーム戦略』である。

 

 

前者は野球の細かな部分を知ることができるし、あまり詳しくないメジャーリーグについての解説が嬉しい。後者は野球そのものにあまり触れないものの、球団経営の裏側について詳しく知ることができる。さて本書の魅力はやはりメジャーリーグ経験者の現役監督という視点であろう。高津監督は韓国や台湾、独立リーグでも経験があるためプロ野球を客観的に見るための比較対象に困らない。欲を言えばアメリカ以外の野球についても触れてほしかったが、それは続編の『一軍監督の仕事』に期待したいと思う。

 

余談だが、二軍時代の高橋奎二の向上心の高さに何度も触れているのがすごい。今やヤクルトのエース候補である。あっぱれ。